2007 |
01,11 |
事の始まりは、いつものように水の中に吸い込まれた後だった。
通常はギュンターとコンラッドだけが迎えに来るはずが、そのときは珍しくヴォルフラムもついて来ていた。
吸い込まれたとき、これまたいつものように風呂に入っていた有利は、当然の如く全裸で。3人が来るまで少しの間、風呂から噴水への急激な温度変化に耐えていた。
駆け寄ってきたギュンターは、普段よりも涙を湛えながら普段よりも約2割り増しの美辞麗句を連ね、コンラッドは苦笑しながらその様子を、大きなタオルを持ちながら傍観していた。
あともう一人、そうフォンビーレフェルト卿ヴォルフラムである。彼はいつもなら、前回の消え方や今ギュンターに抱き疲れていることなどを、ギャーギャーと責めてくるのだが、なぜか今回はギュンターに抱きつかれる有利をじっと見たまま動かない。
有利がギュンターの飽きるまで抱きつかれ、やっと離してもらうと、すぐに仕事の話になった。
「来たばかりでお疲れの陛下のお手を煩わせるのは心苦しいのですが、不在の間に溜まった書類が五万とありまして・・・」
「あー、わかってるよ!じゃ、さっさと行こう!」
毎度毎度のことで、この先のことが理解できていた有利は、コンラッドに小さなタオルで髪をゴシゴシされ、ギュンターに大きなタオルを巻きつけられながらも、噴水から一歩踏み出した。
そのとき、ヴォルフラムが初めて口を開いた。
「ユーリは・・・筋肉がないな」
「・・・は?それ嫌味?」
ヴォルフラムは全くそんな気がなかったらしく、嫌味?と問われ眉を顰めた。
「嫌味ではない!僕は事実を言っているまでだ」
「事実とかもっと失礼だから!分かってるから言わないでおいてよっ!」
相変わらずプーだな、小さくヴォルフラムには聞こえないくらいの大きさで呟いたのに、彼の耳にはそれが届いたのか、カツカツと軍靴を鳴らし大股で近づいてきて、有利の腕を掴んだ。
「・・よし、ユーリ!僕がお前を鍛え直してやる!」
「いや、遠慮しとくよ・・・俺ランニングとか自分でやってるし」
有難いだろうと意気込んで更に近づいてくるヴォルフラムから離れるために後ろに下がる。かかとが噴水の端っこにぶつかる。
自主トレをやっているのは本当だ。それによって筋肉が少し、前よりは確かに、少ないとしてもついたのも本当だ。けれど、有利がヴォルフラムの誘いを断る本当の理由は・・・
「それにさっ、お前の目、なんかイヤらしいんだよーっ!!」
これだった。有利は正直ギュンターとヴォルフラムの目には下心がありありと浮かんでいると常々思っていた。
「なっ!・・・お前こそ失礼ではないかっ!僕はそんな目でお前を見てなどいないっ!!」
純粋に婚約者として・・・、ヴォルフラムは頬を真っ赤にして、あたふたと弁明をする。
コレは逃げたほうがいい、幾度も死線(ある意味)を乗り越えた有利の直感は、そう告げていた。ぐるぐる巻かれたタオルをギュッと握って自室に向かって走り出した。
「あっ、おい!ユーリっ!」
「陛下!どこへ・・・っ」
「ヴォルフラム、お前もいい加減に・・・」
会話はそれだけ聞こえてきて、走ってからは廊下にいる女の人たちの内緒話、クスクス声だ。
「こらぁーー!!!待て、ユーリっ!!」
それに、ヴォルフラムの怒鳴り声もあった。
走るのに必死で、振り返ることは出来ないが、おそらく鬼の形相でヴォルフラムは有利に迫ってきているだろう。
ずれ落ちそうになるタオルを何度も上に持ち上げて、有利は更に必死に走った。途中息切れがしてきて、こんなことになるなら大人しく頷いとけばよかった、今度誘われたら筋トレでも何でもやるから二度とこんなことはないように、と願いながら。
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