2006 |
09,18 |
なにが原因かはハッキリとは分からない、けれどあなたは一年持つか分かりません
別にその言葉に驚きはしなかった。
忍びだし、一応死の覚悟って言うのは人よりは強く抱いていたはずだから。
けれど、今一番に考えてしまうのは、自分の死というものよりも、
いつもと同じ朝。今日はアカデミーはお休みだ。
目覚めれば隣には温かな人、“そういえば今日は子供たちの修行って言ってたっけ”と思い出してから、そっと布団を抜け出した。
隣に誰かがいてくれるなら、おれはその人のためになにかをしてあげたい。例えば今は朝ごはんだ。銀髪の彼は、強いが故に得られないものも多い。栄養バランスの整ったご飯とか。まあそんなのだけでなく、もちろん彼はいろんなものを得られず、失い、そして同じくらい得てきたはずだが。
今日のご飯は何にしよう、あまり悩む時間もないのに、冷蔵庫とにらめっこした。
そのとき、ふいに思い出す言葉。
あなたは一年持つか分かりません
急に胸が痛くなって、病院に駆け込んだのは二ヶ月前。
一年持つか分からないと、そう宣告されて、二ヶ月が経った。
幸い、カカシさんはこのことを知らない。
知られたら、全くどうなるか分かったもんじゃない。
自惚れかも知れないけれど、おれがいなくなったら、彼はきっと、・・・なんて、それはおれの願望か。子供みたいにわんわん泣く、何も手につかなくなる、ずっとおれを忘れない、なーんて。
本当を言えば、彼はなにも表には出さないんじゃないかと思う。いつもニコニコして優しい彼だって、一流の忍びだ。感情を表に出しすぎることの危険さなど、考える間もなく身に染みているだろうから。
一日に何度も何度も、死の事実を思い出すのは、死に怯えているからではない。ただ、それだけが心配だからだ。
畳の上で死ぬのが不可能に近い忍びが、今畳に一番近く存在できている。しかも、一日一日を大切に生きようと感じさせてくれるリミットつき。強がりかもしれないが、それなりに感謝している。
けれど、カカシさんを一人置いていくことに不安を覚えている。
だって、おれは心底カカシさんを好きだから。他の誰かと抱き合って、いつかは幸せな家庭を築いて・・・ようはおれのいない世界で生きていくカカシさんを、知りたくない。
「おはようございます」
おれは、ずっと冷蔵庫とにらめっこしていたらしい。
現実に引き戻されるその声に目覚めて時計を見てみれば、ゆうに30分は経っていた。
しまった、朝ごはん全然できてない。
「おはようございます、あの」
「あ、朝ごはんですか?」
「すみません!なんかボーッとしちゃって」
急いで作りますから、そう言うとカカシさんは笑った。
「今日は二人で作りましょ~」
「え?でも修行は・・・?」
「修行?・・・あぁ、あれは午後からなんで大丈夫です」
おれが覗いた後も開けたままの冷蔵庫の中を、今度はカカシ先生が見る。
サラダがつくれそうですね、カカシさんはいちいち振り向いて、おれに笑いかけた。
あなたは一年持つか分かりません
おれのいない世界を謳歌するカカシ先生がいやだったけれど、もういいです、それでも。
おれのあと一年、いや、そんなにない命が、こうして笑顔を生み出せ、その笑顔がずっと続くのなら、おれは今頑張ります。
カカシさんがずっと笑顔でいられるように、カカシさんがずっと、幸せであるように。
明日はちゃんと起きて、カカシさんのために朝ごはんを作ろう
明後日は夕飯を奮発して、秋刀魚と茄子で、染め上げよう
そのあとは・・・そのあとは・・・
・・・そうして旅立つ前日には、おれはあなたの幸せを一生懸命祈ります。
そしてありがとう、と